アトリエには、「つい、そこに座ってしまう場所」がある。
朝、コーヒーを片手に窓の外を眺める場所。
本を持って、少し腰を下ろす窓辺。
何をするわけでもなく、庭の木々の揺れをぼんやりと眺める場所。
特別な家具が置かれているわけでもなく、誰かに決められた席でもない。
それでも、気がつくと、そこに座っている。
私は、その理由のひとつに、「光のたまり」をつくるようにしているからではないかと思っている。
朝のやわらかな光。
障子を通して広がる、ほのかな明るさ。
木漏れ日のように揺れる影。
夕暮れ時の、少し寂しさを含んだ光。

光は、ただ部屋を明るくするためだけのものではない。
窓の大きさや高さ。
どの方向から光を迎え入れるのか。
その先に、どのような風景が広がっているのか。
ほんの少しの違いで、その場所の居心地は変わっていく。
設計をしていると、
「この場所には、どんな時間が流れるだろう」
と想像することがある。
朝日を浴びながら本を読む人。
雨の日に庭を眺めながら物思いにふける人。
家族の気配を感じながら、一人の時間を過ごす人。
そんな何気ない日常の風景を思い浮かべながら、窓や開口部のあり方を考えている。
開口部は、光や風を取り込むためだけのものではない。
人の居場所をつくるためのものでもある。
つい、そこに座ってしまう。
そんな場所がひとつあるだけで、住まいは少し豊かになるのかもしれない。
藤原昌彦