古民家の設計は、難しい。
何十年、時には百年以上もの時間を受け継いできた建物に、自分の設計を重ねていく。
柱や梁に残る傷。
煤によって黒くなった木。
何度も開け閉めされてきた建具。
そこには、図面には描くことのできない、人の暮らしと時間が刻まれています。
新築であれば、何もないところから自分たちの考える空間をつくることができます。
しかし古民家では、すでにそこにある歴史と向き合わなければなりません。
何を残し、何を変えるのか。
どこまで手を入れ、どこから建物に委ねるのか。

古いものを残せば良いわけでもなく、すべてを新しくすれば良いわけでもありません。
残すことが、かえって過去を飾り物にしてしまうこともあります。
新しい意匠を加えることで、建物が長い時間をかけて得てきた静けさを壊してしまうこともあります。
だからこそ、古民家の前では慎重になります。
自分の設計が、この建物に積み重なった時間よりも前に出てはいないか。
新しく加えるものが、これまでの歴史を受け止められているか。
その判断に、明確な正解はありません。
歴史と現在。
残すことと変えること。
昔の暮らしと、これからの暮らし。
その間にある「あわい」を探しながら、一つひとつ決めていきます。
古民家の設計とは、過去を美しく見せることではありません。
積み重なった時間の重さを受け止め、その続きを静かに描くこと。
難しさを感じ、迷い続けること自体が、歴史と対話するということなのかもしれません。
藤原昌彦