愛着の生まれる住まい

藤原の日記

私には、長く大切に使っているものが多くあります。
スケッチをするときの鉛筆や修正用のペン。
いつも座っている椅子。アトリエに飾っている絵。

高価なものもあれば、決して高価ではないものもあります。
けれど、愛着のあるものには共通して、「手の痕跡」が残っているように思います。
長く使い続けた時間や、苦労した記憶、迷いながら向き合った過程。
そういったものが積み重なることで、単なる“物”ではなく、自分にとって特別な存在になっていくのではないでしょうか。

住宅設計も同じだと感じています。

おかげさまで、これまで多くの住宅を設計させていただきましたが、簡単にできた住宅は一つもありません。
プランに悩み、素材に悩み、光の取り入れ方に悩む。
そして何より、多くの場合はコスト面で悩みます。

時には、それらが複雑に絡み合い、「産みの苦しみ」のような時間になることもあります。
しかし、その苦しみをクライアントと共有し、乗り越えながら完成に辿り着いた時の喜びは、何にも代え難いものがあります。

以前は、設計や金額に関する悩みを、できるだけクライアントに見せないようにしていました。
けれど、コロナ以降の社会情勢や建築費の変動を考えると、金額についてはできるだけオープンに共有しながら進める必要があると感じています。

設計の初期段階では、全体予算を踏まえながら計画を進めます。
ただ、設計が深まるにつれ、「より良い空間にしたい」「もう少し豊かな暮らしを提案したい」という思いが強くなり、結果として当初予算を超える提案になることも少なくありません。

例えば、最初に想定していた予算が100%だとすると、初回見積りでは150%ほどの内容になっていることもあります。
そこから、予算に近づけるために減額提案を行っていきます。

減額と言っても、単純に安いものへ置き換えるだけではありません。
造り方を整理したり、優先順位を見直したりしながら、本当に大切なものを残していく作業です。

その際、多くの方が不安になるのが、「減額したことで、バウムスタイルアーキテクトらしい住宅ではなくなるのではないか」ということです。

ですが、私が大切にしているのは、空間の骨格や光の質といった、本質的な部分です。
多少素材が変わったとしても、設計に込めた思想や、空間の質そのものが失われることはありません。

むしろ、悩みながら取捨選択を重ね、目指す暮らしを共有しながら完成した住宅には、深い愛着が宿るのではないかと思っています。

そして、完成後も少しの不便さを工夫しながら暮らしていく。
その積み重ねによって、さらにその住まいは、自分たちだけの場所になっていくのだと思います。

少し予算を超えていたとしても、手の届く範囲であれば、ほんの少し背伸びをしてでも手に入れてほしい。
そんな思いもあります。

少し高価な服を買った時、自然と背筋が伸びる感覚があります。
大切に着ようと思う気持ちも生まれます。

住宅も同じです。
単に「予算に合わせる」のではなく、少し背伸びをしてでも、本当に良いと思える空間を手に入れることで、暮らしそのものが少しずつ変わっていくのではないでしょうか。

もちろん、様々な工夫の結果として予算内に納まることは、とても良いことです。
けれど、その過程で悩み、考え、選び取った時間こそが、住まいへの愛着を育てていくのだと思います。

藤原昌彦